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名古屋高等裁判所 平成2年(ラ)79号 決定

抗告人(申請人)

高鍬光孫

右代理人弁護士

大山薫

相手方(被申請人)

株式会社光伸不動産

右代表者代表取締役

高鍬伸男

相手方(被申請人)

高鍬伸男

主文

本件抗告を棄却する。

抗告人の当審における追加的第四次申請を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨(当審における追加的第四次申請の趣旨をふくむ)および理由(右第四次申請の理由をふくむ)は別紙一および別紙二のとおりである。

当裁判所も抗告人の原審における主位的ないし第三次申請は失当と判断する。その理由は、抗告人が抗告の理由で述べる見解は採用し難いと付加し、かつ原決定につき左のとおり付加訂正するほかは、原決定の理由のとおりであるからこれをここに引用する。

原決定二丁裏一〇行目の「選任した旨」を「選任された旨」と改め、同三丁表五行目から六行目にかけ「被申請人を取締役に選任した決議は重大な瑕疵をともなうものであり、」を削除し、四丁表一一行目から一二行目にかけ「は重大な瑕疵をともなうものであり、決議」を「が」と訂正し、同二丁裏一一行目、同三丁表四行目(二箇所)、同九行目、四丁表五行目、同七行目の各「召集」をいずれも「招集」と訂正する。

原決定の四丁裏四行目冒頭から五丁表六行目までを左のように改める。

「商法第二五二条、平成二年法律第六四号による改正前の商法第二七〇条、第二七一条、平成元年法律第九一号民事保全法附則二条による改正前の民事訴訟法第七六〇条に基づき、取締役の職務執行停止仮処分申請を認めるためには、単に取締役選任決議についてそれらが不存在ないし無効である又は取消しうべきものであるというだけでは足らず、選任された自称取締役にそのまま職務を執行させておいては、会社に回復すべからざる損害を生ずるおそれがある等強度の保全の必要性が存在しなければならない。けだし、仮処分の段階では、ある者を非取締役と決めつけることはできないのに、本案判決前に取締役の職務執行を停止させ、本案確定後の勝訴と同じ結果を実現しようとするからには、保全の必要性がより強度に存在しなければならないからである。

そして右のように強度の保全の必要性の疎明を要求することが、憲法第三二条の裁判を受ける権利を侵害し、同条に違反するものでないことは、右の制度の趣旨、目的、他への影響の大きいこと等から当然であって抗告人の違憲の主張はもとより採用できない。

抗告人は独自の見解に立って、主位的申請の右必要性につき、具体的な主張もその疎明もしようとしないのであるから、この点において既に却下を免れない。」

次に当審における追加的第四次申請については、主位的ないし第三次申請と同等又はそれ以上の内容の実現を仮処分によって求めようとするものであるから、保全の必要性がもとより要求されるところ、その必要性についても同様、具体的な主張もその疎明もなされていないから、これも却下を免れないところであり、勿論保証をもって右疎明に代えることも相当でない。

よって、本件抗告を棄却し、当審における追加的第四次申請を却下し、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官海老塚和衛 裁判官水野祐一 裁判官喜多村治雄)

別紙一抗告の趣旨

原決定を取消す旨の裁判および抗告人が原審において求めたとおりの裁判および抗告費用は相手方らの負担とするとの裁判を求める。

抗告の理由

一、 原決定には以下に述べるとおり法律解釈の誤りがあり、かつ憲法第三二条の違反がある。

本件仮処分の申請内容は先行する二回の仮処分(疎甲第六号証の一ないし三、疎甲第九号証の一ないし三)のものとほとんど同一の内容であり、特に二回目の申請は表現こそ異なるが裁判所に対してなした問い掛けも異ならない。すでにこの段階で問題は極めて明らかであると指摘しており、本件ではこれ以上言うべき言葉も見当たらないくらいである。抗告人が求めているのは、要するに、裁判所が措定したルールの下でどのような経過で相手方会社の運営につき適法状態が回復されるのか、そのシナリオを示してもらいたいということなのである。もしなんらの仮処分も認められないのであれば、本訴事件が高裁に係属中に取消事由のある三回目の役員選任決議がなされたとき、本訴事件はどうなるのであろうか。あるいは右決議がなされた旨の虚偽登記がされればどうなるのであろうか。そして右の決議が累積していったとき、いつ適法状態が回復されるのであろうか。原決定はこのように抗告人が提示した問題についてなんら触れていない。永久に適法状態が回復されない法の運用・解釈というものはそれ自体自家撞着であり、違法であるに決まっている。このようなことは商法第二七〇条の立法趣旨もしくは同条の機能と商法第二七二条の機能との相違などを論ずるまでもないことである。

原決定は、抗告人の二次および三次的申請について保全の必要性に関し具体的主張がないと説示している。しかし、原決定のこの理由部分は、前述のような抗告人の主張を故意に無視したものであると考えざるを得ない。原審は右のとおり取消事由のある(したがって、先行する本案事件の控訴審においてはその無効を主張することができない。)総会決議が累積するおそれはないというのであろうか。それとも一〇回程度決議が繰り返されれば保全の必要性が生じるとでもいうのであろうか。原決定はこのような重要な問題について全く応答しておらず、理由を示していない。まことに鉄面皮の姿勢であるという他ない。このような裁判は憲法第三二条に定められた控告人の権利を実質的に侵害している。

別紙二一、申請変更の申立て

抗告人は次のとおり四次的申請を追加して申請を変更する。

①申請の趣旨

本案判決確定に至るまで相手方株式会社光伸不動産において相手方高鍬伸男は名古屋法務局に対し別紙目録記載の取締役選任登記手続をしてはならない。

相手方高鍬伸男は、右命令に違反したときは、抗告人に対し金五、〇〇〇万円を支払え。

申請費用および抗告費用は相手方らの負担とする。

との裁判を求める。

②申請の理由

被保全権利は、申請書に記載したとおり抗告人には相手方会社の組織面における運営を適法状態に回復させるよう求める権利がある。保全の必要性は右申請書に記載したのと同様である。

ところで、保全処分制度全体についてなんらかの統一された理念があるか否かは、それ自体一個の問題であるもののようであるが、「権利の存否をめぐる紛争がある場合、その適正な解決を図るためには、一定の時間を必要とし、権利の実現にはある程度の時間的間隔を伴うことは不可避であり、その間に権利の実現を危うくする事態が予想されるとすれば、これを防止するための手段を整えることは、紛争解決のための究極の目的を支える必然の要請であるといってよい。(注解民事執行法(6)二頁)」ということは疑問の余地がない。しかるに民訴法第七六〇条が定める保全処分は、規定の体裁上主として権利実現の確保とは異質なものを制度目的としたものと解釈できないことはない。しかし、かりにそうであるとしても、その制度目的は前述の究極の目的に上積みされたものであり、権利の確保がなされないところに民訴法第七六〇条の適用の余地はないのである。したがって、この逆に、民訴法第七六〇条の申請をする者は原則として民訴法第七五五条の申請をもしているものと解釈すべきであるというのは(菊井外・三訂版仮差押・仮処分一九七頁)、まことに正当な指摘であるといわなければならない。

本件についていえば、先行する二回の仮処分申請についてはともかくとして、今回の申請によって抗告人の主張と裁判所の判断とが全く噛み合っていないことが判明した。抗告人は第一回目の申請から今回の申請に至るまで一貫して権利の確保を主張しているのに、村上裁判官は損害についてのみ論じ(もっとも、その「損害」の内容が問題であることは当代理人が二回目の申請で論じた。)、あまつさえ、抗告人の予備的申請、三次的申請について必要性に関し具体的な主張がないなどと説示しているからである。村上裁判官は、一体、処分禁止仮処分申請において申請人がただ放置していては処分の虞れがあるなどと主張すれば具体性がないといって申請を却下しているのであろうか。

もし今回も抗告審の裁判官が村上裁判官と同様にとぼけた態度を採るならば、重大な職務の怠慢であるから結果はどうあれ特別抗告をもって満天下の批判を仰ぐ決意である。

別紙目録

一、取締役選任登記

ただし、①本裁判の日から本案判決確定の日までに開催される被申請会社の株主総会における取締役選任決議に基づくもので、後記株主持株明細書記載の持株数と異なる特株数を前提として議決権の数が算定された決議に関するもの、および②存在しない被申請会社株主総会の取締役選任決議に基づく虚偽のもの

記(株主持株明細書)

1、申請人高鍬光孫 一、二〇〇株

2、高鍬つい 三〇〇株

3、被申請人高鍬伸男 一、二〇〇株

4、高鍬妥子 三〇〇株

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